「お疲れ。まだ少し調子悪そうだな。」
出張が終わり帰ろうという時、北原さんがまだ心配してくれている。
「いえ。大丈夫です。」
あたしはすこし微笑んで見せた。
「もしかして・・・また向こうでの事?」
「えっ?」
「牧野が向こうで過ごしてきた日々が関係ある?」
北原さんの車に乗った頃、運転席に座った彼があたしに聞いてきた。
「・・・・」
「あるんだな。牧野がそんな顔する時はずっと向こうでの事。」
街はクリスマスイルミネーションで飾られている。もうすぐクリスマス。
車はそんな街の中を走っていた。
「違うって言っても・・・・ばれてますよね・・・?」
北原さんは・・・あたしのことを本当に心配してくれている。
「うん。ばれてる。何があった?」
「・・・・・・・・」
「言いたくなければ言わなくていい。」
前に話をした時も・・同じ事を言ってくれた気がする・・・。
北原さんは、あたしが言い出すのを待っていてくれてる。
「あたし・・・・今ごろ・・・気づいたんです。」
「何を?」
「向こうの彼・・・夢の父親の人が・・・好き。」
あたしは、北原さんに涙を見られないように、窓の外を見た。
「彼が、他の人と歩くところを想像しただけ・・・なのに胸が痛むんです。」
「戻りたい?」
北原さんが予想もしていなかったことを言い出した。
「えっ?」
「牧野は、今、向こうに戻りたいって思ってる?」
戻る・・・・そんなこと、あたしが許されてることじゃない。
「戻れない。そんなこと・・・・・・出来ないです。」
あたしは涙を堪えてそう言った。
ここへ来る決断をしたのはあたし。あたしが決めたんだ。
それに無言でここへ来て、心配かけていまさら・・・戻れない。
「牧野・・・・、泣きたいなら泣けば?」
北原さんは、ハンカチを差し出してきた。
信号が赤になって車が止まった時、北原さんは真剣な顔をしてあたしを見てきた。
「牧野、牧野が、彼を忘れなくてもいい。ただ、俺は牧野を支えてあげたい。」
「・・・・・・・」
「なぁ、俺じゃダメ?」
あたしは北原さんの言葉に涙も吹っ飛びびっくりした。
「えっ?」
「俺は牧野が好きだよ。」
そう言った後で、信号が青に変わり、北原さんは前を向いた。
あたしは驚いたまま北原さんから目が離せない。
「牧野・・・そんなに見んなよ。だけど・・・今のは本当。だから・・・牧野?付き合って?」
北原さんからの告白・・・。あたしは少し現実に戻った。
確かに北原さんはあたしがここへきてから、支えてくれた。
だけど・・・・あたしはやっぱり花沢類が、忘れられなくて・・・
花沢類のことを忘れられなくてもいい・・・そう言ってくれたけれど・・・
そんなに都合よく考えられる頭をあたしは持ってないよ・・・。
あたしは、もう・・・・誰かの人生を狂わせるような事してはいけない。
「北原さん・・・。あたしは、やっぱり、彼のことを忘れられないのにお付き合いする事なんて出来ないです。ごめんなさい。気持ちだけ、頂いておきます。」
「だから・・・忘れられなくてもいいのに・・・。」
「いえ。きっと北原さんを苦しめてしまうから・・・。」
「そっか。きっと牧野のこと、これ以上言っても考えを曲げないんだろ?」
北原さんは、何事もなかったかのようにいつものように笑ってくれた。
「はい。すいません。」
「でも、いつでも、待ってる。もし、つらい時、悲しいとき、俺に頼って。俺は、牧野が好き。それは変わらない。牧野が、誰かを頼りたくなった時は、すぐ俺のところに来て。」
北原さんは優しく言ってくれた。
「はい。ありがとうございます。」
本当にありがとうございます。そう思った。
それから車は、保育園の前に止まった。今日は、出張が終わるとそのまま帰ってよかったから。
「今日はありがとうございました。気持ちに答える事ができなくてすいません。」
「牧野らしい。きっとこうなるって分かってたし。」
北原さんはあたしが悩まないようにそう言ってくれたような気がした。
「じゃあ、また明日、会社でな。」
そう言って北原さんの車は動きだした。
しばらく見送ってあたしは夢を迎えに行った。
「あっ!ママ!」
そう言って走ってくる我が子の手を握り、保育園での出来事を聞きながら家に帰った。
夢?ごめんね・・きっとこれから、二人で生活するには辛い事もあると思う。
夢ももうすぐ疑問に思うよね?ねぇ・・・夢のパパは?って。
その時・・・・夢には本当のこと言えないかも知れない。
だけど・・・いつか、夢には本当のことを話すよ。
だって夢はママの大切な宝物だから。
だから・・・夢にはすべてを知ってもらいたいの。
それで夢にはママみたいになってほしくないの。
好きな人から逃げるような人には・・・・・。
ちゃんと好きな人の手、自分で捕まえておいてほしい。
まだ夢は小さいから分からないと思うけどね。
幼い我が子の寝顔を見ながらあたしは思った。
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